「クマは警告する」より その3

[クマに死んだふりは有効か?]

さてクマが人間を「襲う」とたやすく言うが、クマにとってこの行為は一世一代の勇気がいることである。先日の雲場池での接触事故について、ピッキオ状況や概略をまとめているがこの中で彼らは、

「事故現場周辺は道の片側が池、片側が柵となっており、クマが完全に隠れられる場所もない。逃げ場所を失い、追いつめられたような心理状態であったところで複数の人間との距離が非常に近くなり、接触に至ったのではないか」

と的確に分析している。まさにクマが人間と出遭ってしまった場合、彼らは自分を追いかけてこられない程度に相手をやっつけて、一刻も早くその場を離れたい一心なのだ。

その点だけで考えれば、動けなくなったように「死んだふり」をするのにも一理ある。しかしクマの前で死んだふりをするのはいささか勇気がいるし、しかも何かをかぶって横たわるわけではないから無傷ですむ保証もない。おそらくクマは噛んでみたい衝動に駆られるだろう。動物が噛むのにはいろいろな意味があるのだが、本気で噛まなくても痛いだろうし、その結果として声を出してしまえば大きな事故になりかねない。特にクマは、無意識に後頭部や頚動脈が走る側の首や腕などを噛む。となると、やはり無防備な「死んだふり」はリスキーだ。

[具体的な対処方法]

(1)クマは人間が逃げようとすれば必ず全速力で追ってくる。しかしこの時、手元のバッグなどをクマ目がけて投げつければ、必ずそちらに目を向けて正体を確かめようとする。少なくともここで1~2秒稼げ、この一瞬が勝負の分かれ目となる。これは先に触れた宮澤さんの実験結果によるものだ。

(2)次に何をおいても、自分の登りやすい「細い木」を探して飛びつく。くれぐれも注意しなければならないのは、電柱のような太い木を選ばないことだ。太い木は人間には登りにくいが、手鉤の爪を持つクマには好都合でたちまち追いつかれてしまう。

(3)クマが木に登り始めるのを待って、タオルなどをヒラヒラさせながら鼻先に垂らす。すると必ずそれに噛み付いてくるので、噛むのを確かめたら目が隠れるように手を離す。

(4)失敗したら、次は帽子を鼻先に丁寧にかぶせてやる。彼の両手は幹に取り付いているから、叩かれたりする心配はない。

(5)それにも失敗したら、なるべく高いところに避難しつつ上着やシャツを脱いで、鼻先に最後のトライをする。上着やシャツは面積が大きいからかぶせやすいし、クマの方からすれば取り除きにくい。除くには両手が必要で、手を離せば木から落ちる。この衝撃にクマは必ず一目散に走り去ることになる。向こうは両手が使えないことを忘れず、落ちついて慎重にかぶせるようにする。

(6)宮澤さんはもう一つの方法として、唐辛子の辛味成分入りスプレーの携帯も勧めている。射程距離の短いものは自分自身もスプレーを浴びたりして危険な結果になりかねないが、アメリカ製の「COUNTER ASSAULT」などは官公庁でも制式採用され、また成分も動物にとって無害なものでできており、有効だろうと思われる。

[まとめ]

繰り返しになるが、軽井沢は町全体が人間と動物の「臨界」が曖昧な土地であり、思わぬところで接触の可能性があることを想定しておくことが必要だと思う。私もその対策として、気軽な散歩のつもりでもリュックやバッグ、帽子、タオル、上着、熊除け鈴は最低限携帯して出かけるようにしている。

宮澤さんは、「クマは人間と同じ日本最大の雑食性哺乳動物であるが故に、そこに存在することに意味がある」と述べている。つまりこの国の自然の生態系と食物連鎖の環がどこまで保全され、あるいは壊れているかの危険度を表すリトマス試験紙的な存在だということだ。この試験紙が今、我々に見せてくれている結果は非常に重いのではないだろうか。
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by cyril-aw11 | 2008-11-22 23:55 | 自然・環境
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